妊婦健診中の検査に関して
当クリニックの妊婦健診における検査についてのご説明・ご案内をしております。
超音波による胎児スクリーニング検査
- *当院で妊婦健診を受けられている方全員を対象に、必ずお受け頂いております。
当院では、毎回の妊婦健診時に超音波を用いて、赤ちゃんの心拍・位置・推定体重、ならびに羊水量と胎盤位置などを確認しますが、それに加えて、赤ちゃんに対する超音波スクリーニング検査を行っています。
先天的な構造的異常がないか、赤ちゃんの全身を詳しく調べる超音波検査です。
分娩前にこの検査を行うことで、心臓や腎臓などの先天的な構造異常を早期に発見した場合、対応可能な高次医療機関に紹介させて頂くことで、生まれる前から赤ちゃんを迎え入れる準備をすることができます。
ただし、赤ちゃんの全ての異常を発見できる訳ではありませんので、どうかご了承下さい。
血液型 [ABO式・Rh式]
お産での出血に対応するために必要な検査です。
お産では、時に輸血が必要になるほど大量の出血が生じることがあり、輸血には血液型の情報が必要となります。
また、妊婦さんと赤ちゃんの血液型 [時にRh式]が同じでない場合、赤ちゃんの体内で血液細胞の赤血球が破壊され、赤ちゃんがむくんだり貧血になったりすることがあります。
不規則抗体 [間接クームス]
ABO式血液型は、A型の人は抗B抗体、B型の人は抗A抗体というように、自分自身の赤血球とは反応しない抗体を血液中に持つというランドシュタイナーの法則に従って4つの型に分けられます。
一方、その他の血液型では対応する抗体を持たないことが普通です。
抗A抗体、抗B抗体を法則に従った規則性抗体というのに対し、抗D抗体や抗E抗体などABO式血液型以外の血液型に対する抗体を総称して不規則性抗体といいます。
不規則性抗体は生まれつき自然に持っている場合(IgM型)と、輸血や妊娠で免疫されて作られる場合(IgG型)があり、その不規則性抗体は約0.2~0.4%に認められます。
不規則性抗体を持つ方に、その抗体が反応する血液型の赤血球を輸血すると、輸血した赤血球が破壊され、溶血性貧血などの重大な副作用を引き起こします。
また、妊婦さんの血中にIgG型があり、赤ちゃんが対応する血液型である場合、その抗体は胎盤を通過して赤ちゃんの赤血球を破壊し、赤ちゃんがむくんだり貧血になったりすることがあります。
血算 [貧血の有無]
血液細胞である赤血球に含まれる血色素(ヘモグロビン)の濃度を調べます。
ヘモグロビンは、赤ちゃんに酸素を運ぶ役目をしているので、妊娠期間中に貧血がひどくなると、赤ちゃんへ十分な酸素を運ぶことができず、早産となったり、赤ちゃんの発育が悪くなったりすることがあります。
また、妊娠期間中に貧血が持続していると、出血に対して不利となるため、出産時に輸血となるリスクが高くなります。
梅毒血清反応
梅毒に感染しているか調べます。
梅毒に感染している場合には、赤ちゃんも感染して、流産、早産、胎児死亡、胎児発育遅延、などの原因となることがあります。
たとえ感染していても、早期の治療を行えば、赤ちゃんへの感染を防ぐことができます。
B型肝炎ウイルス抗原
B型肝炎ウイルスに感染して、B型肝炎ウイルスが血中にいるか調べます。
血液を介して他の人に感染することがあるため、感染させないための注意を心得ておく必要があります。
また、妊娠期間中にB型肝炎ウイルスに感染している場合、妊娠期間中に赤ちゃんが感染したり(胎内感染:約5%)、分娩時に赤ちゃんが感染したり(分娩時感染:約95%)することがあります。
分娩前に事前に検査することで、生後間もない赤ちゃんに免疫グロブリンを投与したり、B型肝炎ワクチンを接種したりして、その感染を防ぐ準備をすることができます。
C型肝炎ウイルス抗体
C型肝炎ウイルスに感染して、B型肝炎ウイルスが血中にいるか調べます。
血液を介して他の人に感染して、慢性肝炎、ひいて将来的に肝硬変や肝臓癌となる可能性があります。
よって、感染させないための注意を心得ておく必要があります。
また、妊娠期間中にC型肝炎ウイルスに感染している場合、分娩時に赤ちゃんが感染したりすることがあります。
予定帝王切開術による分娩の方が、経腟分娩や緊急帝王切開術による分娩よりも、明らかに赤ちゃんへの感染が低いことから、分娩前に事前に検査することで、赤ちゃんへの感染を防ぐために適切な分娩様式を選択することができます。
風疹ウイルス抗体
風疹ウイルスに感染しているか、あるいは過去に感染したり、ワクチンを受けたりしたか調べます。
風疹は、一般的に「三日はしか」とも呼ばれる感染症です。妊婦さんが、妊娠前に感染した場合や、過去に風疹ワクチンの接種を受けて十分な抗体を持っている場合には問題ありませんが、妊娠初期に風疹ウイルスに感染すると、赤ちゃんに先天性風疹症候群(視覚障害 [白内障や緑内障]、聴覚障害 [遅発性感音性難聴]、心臓奇形 [動脈管開存、肺動脈狭窄])を引き起こすことがあります。
そのため、感染への武器となる風疹の抗体を十分持っているか、事前に検査することで、未然に感染することの無いように注意を心得ておく必要があります。
HIV抗体
HIV(ヒト免疫不全ウイルス)に感染しているか、あるいは過去に感染したか調べます。
HIVは、妊娠期間中や分娩時に、さらには母乳を介して、赤ちゃんに感染することがあります(約10-40%)。
予定帝王切開術による分娩の方が、経腟分娩や緊急帝王切開術による分娩よりも、明らかに赤ちゃんへの感染が低いことから、分娩前に事前に検査することで、赤ちゃんへの感染を防ぐために適切な分娩様式を選択することができます。
また、妊娠期間中に高HIV薬を投与したり、母乳を避けて粉ミルクを使用したりすることで、妊娠前後の赤ちゃんへの感染を防ぐことができます。
性器クラミジア検査
クラミジアという微生物が子宮の出口にいると、妊娠期間中に流産、早産、前期破水、などを引き起こしたり、赤ちゃんに結膜炎、咽頭炎、肺炎、などが生じたりすることがあります。きちんと検査を受けて、抗生物質(マクロライド系抗生剤)を飲めば、これらの悪影響を防ぐことができます。
トキソプラズマ抗体【希望者のみ】
トキソプラズマに感染しているか調べます。
妊娠初期にトキソプラズマに初めて感染すると、赤ちゃんに感染して先天性トキソプラズマ症(水頭症、小頭症、目・脳・筋肉などの異常)を引き起こすことがあります。
一般的には、鳥類のほか、ネコの排泄物や、不十分に加熱された豚肉、などから感染します。
赤ちゃんへの感染は、比較的ヨーロッパで多く日本では少ないですが、妊娠初期にヨーロッパにいた方や、鳥やネコなどを飼っている方は、検査することを強くお勧めします。
甲状腺検査【希望者のみ】
甲状腺の機能に異常がある場合、流産、早産、胎児発育遅延、妊娠高血圧症候群、などの発生リスクが高まるとされています。
また、甲状腺の機能が低下したままの状態でいると、赤ちゃんの神経と精神の発達に、悪影響の出る可能性が指摘されています。きちんと検査を受けて、妊娠初期から治療を開始すれば、産まれてくる赤ちゃんへの悪影響を防ぐことができます。
クワトロ検査【希望者のみ】
採血にて採取した、血中のある特定の蛋白質(AFP、hCG、uE3、InhA)を測定することで、
赤ちゃんに下記の異常がないか、その確率を調べる検査です。
結果は約1週間程度で得ることができ、妊娠15週から18週の間で行うことが望ましいとされています。
- ① 21トリソミー
- ② 18トリソミー
- ③ 開放性神経管奇形(無脳症、開放性二分脊髄)
羊水検査【希望者のみ】
羊水を採取して、21トリソミー、18トリソミー、13トリソミーなど、赤ちゃんの染色体に異常がないか調べる検査です。
染色体異常には数と構造の異常があり、羊水検査ではその全てが対象となります。ただし、全ての染色体異常が発見できる訳ではなく、
とても微細な欠損や重複は発見できないこともあります。
また、染色体の中にある遺伝子に関しては、その異常を同検査で調べることはできません。
血糖値および妊娠糖尿病スクリーニング検査
糖尿病の方が妊娠されたり、妊娠中の方が糖尿病になったりして、その治療が不十分だった場合、母体の健康状態に悪影響を及ぼしたり、
流産、早産、死産、巨大児、胎児奇形、出生後低血糖、などの異常が赤ちゃんに生じることがあります。
当院では、日本産科婦人科学会のガイドラインに従い、妊娠の初期、中期(糖負荷テスト)、後期のそれぞれで、血糖の検査を行っています。
検査結果が正常から逸脱した場合、75g糖負荷検査など、さらに詳しい検査を行います。
HTLV-1抗体
ATLA(ヒト成人型T細胞白血病)を引き起こす、HTLV-1というウイルスに感染しているか調べます。
ATLAは、日本人の約200-300万人が感染していると考えられているウイルスで、母乳を介して感染し、感染者の約3%に白血病をもたらします。抗体が陽性の場合、赤ちゃんへの感染率は約15-25%とされ、出産後の授乳方法に下記のような管理が必要とされます。
- ① 煮沸した母乳を用いる
- ② 一度凍結した母乳を用いる
- ③ 母乳から粉ミルクに変更する
前期腟内細菌検査
妊娠期間中の腟内の細菌感染は(大腸菌、黄色ブドウ球菌、カンジダ、トリコモナス、など)、早産のリスクが高くなることが知られています。
日本産科婦人科学会のガイドラインに従い、妊娠20週までに検査と治療を終えれば、これらの感染による破水や子宮の収縮を未然に防ぎ、早産に伴う赤ちゃんの出産時低体重を回避できる可能性が高まります。
後期腟内細菌検査
妊娠後期で、腟の入口と肛門に赤ちゃんに悪影響をもたらす細菌がいないか、培養検査を行います。特に、腟内にGBS(B群溶血連鎖球菌)がいると、経腟分娩中や前期破水後に赤ちゃんに感染して、肺炎、髄膜炎、敗血症などの重い症状を引き起こすことがあります。
検査でこの菌が見つかった場合には、分娩や破水で入院されたときから、赤ちゃんへの感染を防ぐために、抗生物質(ペニシリン系抗菌剤)の点滴による治療が必要となります。
胎児心拍モニタリング
ノンストレステスト(NST: Non-Stress Test)とも呼ばれ、分娩監視装置という機械を腹部に約20-30分装着して行われます。
赤ちゃんの胎動、心拍数変化、子宮収縮などを観察することによって、現在の赤ちゃんの状態を把握するほか、赤ちゃんに不整脈や切迫早産などの異常がないか、確認する検査です。
通常は、妊娠36週以降に行われますが、切迫早産を疑わせる腹部の張りを自覚されている場合にも行います。